地獄みたいなところ

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…地獄は色がございます。 闇の色は黒いと申します。冬の色とも似ています。餓鬼は赤く畜生は黄色く修羅は青く。 それら混じりて地獄は黒くなるのです。 ー間違えた。 人選を間違えた。藪にらみ気味の高坂は、溢れている汗を懸命にハンケチで拭いながら憤っていた。 小男である。平均的な女性の身長に少し足りない彼には、平均的な男性より背の高い藤堂の家にある応接間のソファーは大きすぎた。まるで子供になったようで、嫌だ。 「お前…どういうつもりだ」 「どう、とは」 下座の藤堂が笑む。上座の高坂は少したじろぐ。あまりにも堂々とされると人は自分が悪いのかなどと思う。それに藤堂は、自分が欲しいものを持っている。背が高く、美しい顔立ち、それに豊かな髪。藪にらみの出っ歯、ちっとも体重の増えない体は小男というに相応しく、さらにその風貌を冴えなくしているものは、薄い頭髪である。ハゲでチビで、藪にらみの出っ歯。コンプレックスの塊である高坂にとって、美しい者共は味方でなければ敵であるという発想にたどり着いていた。 だから藤堂は味方。迎合せぬ山田は敵。そう思ってきたのに。最近この藤堂が非常に厄介になってきた。市川という幹部に頼まれて傘下に置いた山田が優秀な上に人望が厚かった。それなのでちょいと嫉妬していたら藤堂が山田を潰しましょうと言ったので、任せた。すると山田の娘をさらってきて数人がかりで陵辱した。娘は酷く怯えていたし、泣いていた。でも命ばかりは助けてやろう、と酷く脅して返品したら山田の女房と娘が死んだ。流石に心が痛んだが、それはそれ。 問題は最近の藤堂だ。いや、藤堂の周りのことだ。 藤堂の家は大きな屋敷だ。彼は一代でここまで築いた。それは、いい。 だがここは、不浄の場所に思えて仕方がない。 高坂は悪党であるが信心は深い。悪党であるが故にであるのかもしれない。 今も、屋敷の中から叫び声やら泣き声やら啜り泣く声が漏れ聞こえてくる。 うわああ、いやああ、たすけて、たすけて。 女の、男の、声。 ぞっとするような声が絶え間なくこの屋敷を包んでいる。 誰かが怒鳴る声、笑う声。低く、高く、途切れない。 これはまるで 「ここはまるで地獄じゃないか」
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