阿修羅がきた

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阿修羅がきた

「復讐が終わったらどうするんだい」 「さあ…解らん。死のうか」 「やめてくれよ」 「ふふ、なんだ、同情してくれるのか」 「同情じゃない、同情じゃねえけどさ。同情じゃない感情を言おうとしたら何も出てこねえんだ」 「じゃあそうじゃないのか」 「違うんだ。きっと、ぴったり当てはまる言葉がないだけだよ」 生きて何になる この世界で生きてなにを得る 救いを求めて善人になる それよりこの世で成功者になる この苦しみはなんという この世でまず、感じることは苦しみだという 死ぬ苦しみ、生きる苦しみ、老いる苦しみ、病になる苦しみ 嗚呼四苦八苦 沢山の苦しみは糧になる 強い人間になるために、這い上がるための糧になる こんなに苦しいばかりでは苦しい苦しい、 そう嘆く者は死ね 死んだとてなんにもならん 極楽と地獄が死後にあるという 仏は微笑む 気まぐれにカンダタを救おうとする だが、きっと徒労に終わる 極楽と地獄が死後にあるという 極楽の食事は長い箸で互いに飯を食わせる 自分で飯を食おうとするものは飢えて死ね 生きて何になる この世界で生きてなにを得る 救いを求めて善人になる それよりこの世で成功者になる この苦しみはなんという この世でまず、感じることは苦しみだという 死ぬ苦しみ、生きる苦しみ、老いる苦しみ、病になる苦しみ 嗚呼四苦八苦 苦しんだ者が言う、いもしないだろう仏に唱える 南無妙法蓮華経、 私はあなたへ帰依します この六道のどこかで 苦しんだ者が言う 「慈悲の反対は…」 【慈悲の反対は憎悪】 どこまでも現実的に、といえば金のことになる。 でも、明日死ぬというなら別だという。 「昨日は女を抱いてきた、それに美味い牛肉を食ってな、これで無事だったら俺は借金まみれだぜ。死ぬと思うから贅沢もできた、どういうわけか、俺は二択を天に任せているんだ。このトラックを突っ込んで死ぬか、ひいひい生きるか。まあ生きてたって、いつもと変わらねえんだ。多分死んだってなにも変わらねえ」 坊主頭の花山が笑う。カチコミの時はトラックだろうと二トントラックを勝手に借りてきた男を山田は馬鹿だなあ、と笑った。市川のサイドから借りれた兵隊は30人、向こうも似たような人数だと聞いた。 現在は夜の11時。 今日、藤堂の屋敷に乗り込んで藤堂の首を狩る。 こういう時冷静になったら終わりだよ、と二トントラックの運転席に座った花山が間抜けな声を出した。助手席には山田が乗っている。トラックの荷台には32人。 「まるでトロイの木馬だな、大将」 「別に相手に陣地にひいてもらってないよ。むしろ突っ込むじゃないか。…ありがとう、花山さん。こちらの都合に巻き込んですまない」 「ダメだぜ、謝ったら。謝ったら自分のやっていることが間違っているような気になるだろう。だから俺に言う言葉はたった一つだ。突撃の合図だよ、大将」 花山もまた男だ、ニッと笑って山田に向かって頷いた。山田は体にさらしを巻いて白いワイシャツに黒いズボン、握っているのは日本刀だった。後ろに拳銃が一丁。軽いほうがいいからと他はなにも持たない。じゃあ行くか、と花山が車のキーを回した。
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