阿修羅がきた

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轟音が響いた。 藤堂邸の門が破壊され、トラックが停止する。 トラックのフロントガラスが割れた。花山が動かない、嗚呼この野郎は実は無謀な男でシートベルトをしていなかったのだ、フロントガラスに飛び込んでしまったのだ。だらん、とガラスが開いた運転席から飛び出て目を見開いている花山に目をやって合掌すると山田はシートベルトを外して飛び出す。 そして荷台のドアを開けると男達に大丈夫か、と声をかける。 男達が頷くのを見ると、山田は柔和に笑った。 「手間をかけるが、よろしく頼むよ」 男達も笑った。 「まかせてください」 そして屋敷からも男達が出てくる。わらわらと、青白い顔をして飛び出てくる。トラックの荷台から男達が出てくる。 男達が、男達が、男達が 怒声をあげて渦ができる、それを飛び越えるようにして山田は駆けた。 向かってくる男が一人、走りながら山田は握っていた日本刀の鞘を左の腰にぴたりとつけ、柄を握る。相手の男が拳銃の撃鉄をおろしきらない所で体をねじりながらすらりと白刃を抜いた。抜きざま切り捨てる。薄くとがれた無名の刃が男の服と腹の皮を破り、臓器が出る、声が出る。生死を確認しないで山田は走り続ける。屋敷の中に入ると 一つの部屋を開けた。 佑一が振り返る。痩せこけた頬、目だけが陰鬱に輝いていて、男を犯し続けていた。 その男の顔は雨洞だった。 雨洞は泣きながら言った。 「殺して」 二人の体を垂直に叩き切った。 声もなく二人は倒れたが、山田は息を一つ漏らすと部屋の扉を閉めた。隣からは女の泣き声がする。 そちらを覗くと、以前三浦を助けてくれと懇願していた女だった。女は黙って正座をして首をのけぞり、合掌した。 「私、悔いはありません。あるとすれば私一人が生き残ること」 「そうか…」 「赤ちゃんが産めなかったのは残念だけど…それ以外は後悔はないんです。あの人を終わらせてくれてありがとう」 「すまないな」 「いいえ、いいえ。ありがとうございます。…さようなら」 「さようなら」 女が目をつぶる。山田は女に近づき後ろに回り込む。そして優しく目を塞ぐように片手を置いて日本刀を女の首にあてスライドさせた。血が流れた。ゆっくりと女の体を倒して寝かせてやる。そして立ち去った。
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