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おい、見ろ。
誰かが戦場で呟いた。
戦場の前に佇む大きな屋敷の大きな窓が赤く染まった。
長い髪の首が飛ぶ、赤いドレスの女が腹から血を流して踊るように悶絶している。
そこから現れたのは赤い血をかぶった男のようなもの。
誰かが、誰とはなしに思った。
あれは、阿修羅だ。修羅道に堕ちた仏だ。
ああ、怖いものがいる。
その阿修羅が拳銃を握った。そして窓ガラスを撃った。砕け散るガラスの中、阿修羅が飛び降りた。
戦場に、阿修羅が舞い降りる。
そして、声が消えていく、一つ、二つ、三つ…。
尾崎が藤堂の屋敷に足を踏み入れたのは山田達が乗り込んでから三時間後の事だった。余りにも連絡がないので来てみればそこは戦場跡であった。
まず、花山の死骸がトラックからはみ出ていた。
見知った顔が至る所に地に伏せていた。その中には仁と亀岡もいた。仁を抱き寄せて死んでいる亀岡の片目しかない瞳は見開かれていたので、尾崎はそっ、と瞼に触れて閉じてやった。
夜風に生臭い匂いが混じっていた。
誰の声も、しなかった。
誰一人立ち上がらなかった。
ただ一人、立っている男がいた。刀の切っ先を地面に刺して杖のようにして男は立っていた。
尾崎は屍の中をゆっくりと歩いてその男に近づいた。
「終わったか」
「ああ…」
「これからどうするんだい」
「さあ…解らん。死のうか」
にこ、と男は笑った。立っているが満身創痍である。やっと立っている。だが、男は生きている。
尾崎は目を瞑った。
それから、生きろ。と言った。腹から絞り出すように生きろ、と言った。
「お前はまだ死ぬな。お前が死んだらこいつらが浮かばれねえ」
「ふふ、俺の周りはみな死ぬ。いつだってなにもない、なくなってしまうよ」
「だからどうしたって言うんだ!おまえは、おまえが産まれた意味は、こいつらがここで生きてきた意味はな、お前が死ぬ為の理由の為なんかじゃけしてねえんだよ!おまえは、おまえは、生きろよ…!生きて苦しめ、なにもなくなってしまう人生なら、今、どこかで苦しんでいる奴のために戦えよ、お前のこれからの生きる理由がないのなら、俺が作るよ!いいか、死なせねえぞ、お前の為じゃねえ、お前の為に死んだ奴の為に、俺は生かすぞ、生かし続けるぞ、戦えよ、死ぬまで戦え、これから全部、苦しんでいる奴の為に戦って、生きろ!」
それが俺があの時から書き続けた男の最後に相応しいラストだ!
尾崎の言葉の最後は最早恫喝に近しいものだった。
風が、凪ぐ。
男は苦しいなあ、と笑った。
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