紺色のハチマキの彼

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 トッ、トッ、トッ、と小気味の良い足音がする。息切れは静かだった。憎いほどに僕の状態と違う。軽快な走りだった。足音だけでも分かった。  スーッと視界にその足音の主が現れた。まるで風に運ばれてきたみたいだった。あっという間に現れて、あっという間に僕の前を走っていく。  紺色のハチマキが風ではためいている。そうやって見ている間も彼の背中はどんどん離れていった。あまりにも華麗なので、一瞬だけ疲労を忘れた。  横にぶれない真っ直ぐに伸びた走りだった。すらっと伸びた脚はしなやかに回転して、尚かつ鋭く地面を蹴る。まるで意思を持った鞭みたいだ。  人の走りでこんな見惚れたのは初めてだった。  彼の走りは異常だった。今が走り始めたみたいに手足の勢いが凄い。彼の周りだけ何もないように思えた。  空気も、重力も。  坂道に入っても彼は尚も軽快に進んでいった。  彼の走りを見て思った。  意外と楽な坂道なのかもと。  坂道を踏んだ瞬間だった。   うっ、と筋肉が呻いた。
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