紺色のハチマキの彼

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「止まるな!止まったら終わりだぞ!」 「ばう!」  犬の鳴き声。やっぱりあいつも連れてやがる。  むかっ腹が立った。歯を食いしばって脚を動かした。小さかった空が少しずつ広がってくる。後ろから聞こえる父と犬の声がやかましい。でもその声が僕の背中を押してくれているのは間違いない。  あともう少し、あともう少し。  心の中で唱えながら僕は頂上へ向けて走り続けた。 「もう少しだよ」 「ラストラスト!」  沿道の声援も多くなっていた。ゴールは近い。もう頂上だ。その向こうは青空が広がっている。僕はその青空に向かって飛び込む──────。  身体が急に軽くなった。肺に溜まっていた息がブワッと青空に向かって吐き出されていった。新鮮な空気がスーッと入っていく。  やっと終わった。  強い風の歓迎を全身に受ける。なだらかに伸びる下り坂の先には、たくさんの家が広がっていた──────。 「まだだ!あともう少し!諦めるな!」  その声で我に返る。前を見ると下り坂の先に人だかりがある。
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