眷属

1/1
前へ
/239ページ
次へ

眷属

チルヒメの掛け軸は、表装こそ大きかったが、本紙は小さくすすけていて、虫食いの跡もあり見るからに古そうだった 駿太はその絵を見てドキッとした 桜の花びらが流れる川縁に座るチルヒメの傍に、2匹の犬が座っていたからだ 「この犬…」 「どういういわれがあるのかは定かではないんだが、この神社には犬にまつわる逸話があるんだよ」 「逸話ですか?」 「その2匹の犬はチルヒメを守る犬たちなんだが、いまはチルヒメが失くした大切なものを探しに行っていて、それでこの神社には狛犬がいないんだそうだ」 神主の不思議な聞きながら、駿太は掛け軸を見つめた 絵の中のチルヒメは、優しく犬たちに微笑みかけていた フフは、やはりチルヒメの犬なんだ フフは自分の役割を忘れていなかった 自分の主がこんなに近くに祀られていることに、フフは気づいていないようだった 「犬たちは何を探しに行ったんでしょうか」 「詳細は古事記にも書いてなくて、言い伝えみたいなものだからなあ…」 駿太の熱心な食いつきを、神主が不思議に思っているのがわかった 犬たちが探しに行ったものがわかれば、フフがあそこにいる謎も解けるのではないか 「気になるなら町の郷土資料館に行ってみたらどうだい?何かわかるかもしれないよ。神社にはない資料もあるし」 駿太は神主に頼んで、チルヒメの掛け軸を写真に撮らせてもらって、帰宅した ※※※※※※※※※※※※※※※※ 「フフ!」 祠では、フフが待っていた 「待ってたの?」 「そろそろ夜になるからな」 「フフは夜行性なの?」 「眷族に夜行性も何もないが…」 「けんぞく…?」 「神の使いのようなものだ」 「ふーん…あ、そうだ!」 駿太は祠から見える朴山神社の鳥居を指差した 「この祠から見えるあの神社ね、コノハナチルヒメを祀っているんだって」 フフは駿太が指差す方向に目を細めた 「あとね、これ、チルヒメと、あと、フフの絵じゃないかなと思って」 駿太はスマホを取り出して、朴山神社の掛け軸の写真を見せた フフはその写真を見ると 「ヒメ…」 と呟いて涙を流した
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!

108人が本棚に入れています
本棚に追加