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眷属
チルヒメの掛け軸は、表装こそ大きかったが、本紙は小さくすすけていて、虫食いの跡もあり見るからに古そうだった
駿太はその絵を見てドキッとした
桜の花びらが流れる川縁に座るチルヒメの傍に、2匹の犬が座っていたからだ
「この犬…」
「どういういわれがあるのかは定かではないんだが、この神社には犬にまつわる逸話があるんだよ」
「逸話ですか?」
「その2匹の犬はチルヒメを守る犬たちなんだが、いまはチルヒメが失くした大切なものを探しに行っていて、それでこの神社には狛犬がいないんだそうだ」
神主の不思議な聞きながら、駿太は掛け軸を見つめた
絵の中のチルヒメは、優しく犬たちに微笑みかけていた
フフは、やはりチルヒメの犬なんだ
フフは自分の役割を忘れていなかった
自分の主がこんなに近くに祀られていることに、フフは気づいていないようだった
「犬たちは何を探しに行ったんでしょうか」
「詳細は古事記にも書いてなくて、言い伝えみたいなものだからなあ…」
駿太の熱心な食いつきを、神主が不思議に思っているのがわかった
犬たちが探しに行ったものがわかれば、フフがあそこにいる謎も解けるのではないか
「気になるなら町の郷土資料館に行ってみたらどうだい?何かわかるかもしれないよ。神社にはない資料もあるし」
駿太は神主に頼んで、チルヒメの掛け軸を写真に撮らせてもらって、帰宅した
※※※※※※※※※※※※※※※※
「フフ!」
祠では、フフが待っていた
「待ってたの?」
「そろそろ夜になるからな」
「フフは夜行性なの?」
「眷族に夜行性も何もないが…」
「けんぞく…?」
「神の使いのようなものだ」
「ふーん…あ、そうだ!」
駿太は祠から見える朴山神社の鳥居を指差した
「この祠から見えるあの神社ね、コノハナチルヒメを祀っているんだって」
フフは駿太が指差す方向に目を細めた
「あとね、これ、チルヒメと、あと、フフの絵じゃないかなと思って」
駿太はスマホを取り出して、朴山神社の掛け軸の写真を見せた
フフはその写真を見ると
「ヒメ…」
と呟いて涙を流した
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