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キスひとつ
「駿太!待てよ!」
閉館時間になり、脇目も振らず帰ろうとする駿太を昴流が止めた
「今からお前んち遊びに行っていい?」
3月、5時
日は伸びてきているが、あと30分もすれば日は沈む
「もう遅いぞ?」
「明日休みだからいいじゃん」
「飯は?」
「お前はどうする?」
「今日は焼きそばか何か作ろうかとー」
「じゃあ俺のも作って。材料費渡すから」
今夜は母親が遅いから、このままフフのところに行こうと思っていたのに出鼻をくじかれた
「俺、今日用事があって…」
「もう夜じゃん。何の用事だよ」
「お前に言わなきゃダメなの?」
早くフフに会いたくて、思わず語気が強くなった
「ダメじゃないけど、それなら俺が聞くのもダメなの?っていう話になるよな」
「昴流、なんか変じゃない?」
「変なのはお前だよ。ここ最近町?のこと調べたり、神社行ったりさあ…今日だって付き合いわりぃし…」
確かにその通りだが、昴流がそういうことを気にするタイプだとは思わなかった
「俺は頼んでないのに、お前が勝手についてきたんだろ?」
振り切って自転車を出そうとする駿太の手を昴流がつかんだ
「好きだから一緒にいたいんだろ?」
昴流に駐輪場から引っ張り出され、駿太はよろめいた
しかし昴流は引っ張る力を緩めず、そのまま駿太を抱き寄せた
その瞬間、昴流の【好き】の種類が友人に向けてのものではないとわかった
「駿太…」
昴流の唇が駿太の唇に触れた
駿太がびっくりして固まっていると、昴流は唇をさらに押し込んできた
駿太の唇に昴流の歯が当たった
「すば…やめ…ろ」
駿太が力一杯昴流を押すと、昴流は弾かれたように飛びのいた
「ごめん…」
昴流が学ランの袖で唇を拭いたのを見て、駿太は頭に血が上るのを感じた
「拭くくらいならするな!」
駿太は自転車を乱暴に引っ張り出して、全速力で祠に向かった
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