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犬は犬でも
駿太と母親が遊びに行った直後、父親は、スペインに女ができて、そのまま帰ってこなかった
母とどんなやりとりがあったかは知らないが、それから少し経って離婚して、駿太は母親の実家であるこの海の見える町に来た
朝から晩まで働く母に変わって、祖母が駿太の面倒を見てくれた
だから、祖母が毎朝祠にお供えすることも知っているし、それを続けろというなら、自分が祖母に代わってやってあげようと思った
「ばあちゃんよりは、まともな物を持ってこれると思うよ」
「それは楽しみだ」
声のした方を振り向くと、祠の前に一匹の犬が座っていた
「あれ?いつの間に。君、いつからいたの?」
駿太は犬に近づいた
首輪はしていないが、毛並みはきれいそうだ
飼い犬だとしたら、近所の犬ということになるが、あいにくこんな犬は知らない
「どこから来たの?この辺のコ?」
駿太がしゃがんで頭を撫でていると
「お前、犬に向かって本気で喋りかけてるのか」
またどこからともなく声が聞こえ、駿太は周りを見渡した
「こんなとこに誰も来ない」
そうは言っても声ははっきりと聞こえる
「だ、誰?!」
「俺だ、俺」
駿太は声のする方を見た
犬が口を広げて笑っている
ように見えた
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