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目の前にいる!
駿太の部屋からも海が見渡せる
駿太は窓を開けて海の匂いを嗅いだ
その日の匂いで、風向きや風の強さや波の高さがわかる
目線を左に向けると、頂上に祠がある山が見えた
そこから少し右の方には、お祭りが開かれるような大きめな神社がある
「で、毎朝お供えするんだ?なんでだろうな」
「それな。ばあちゃん何も言わないで死んじゃったから」
「信心深いのはわかるけど、何の神様かわかんないってのはちょっとな」
そんなこと考えてなかった
「明日母ちゃんに聞いてみるかな」
※※※※※※※※※※※※
昨日買った100均のプレートに、自分の弁当用のおかずとご飯を盛り付けた
犬がいるかと思い、歩きながら探したが、来る途中にも祠の近くにもいなかった
しかし、寿司詰めは食い散らかされていて、いたという痕跡はあった
糞があったら片付けようと祠の裏を見た
その時、
「うまかったぞ」
またも昨日の声がした
「こっちだ。ここ」
祠の向こうに犬の尻尾が見えた
朝日に照らされ、毛の一本一本が輝いて見える
駿太が祠の上から反対側を覗き込むと、そこに、昨日の犬がいた
「あ!」
犬は先ほど供えたばかりのご飯をすでに食べていて、長い下でペロリと口の周りを舐めた
「あ、ワンちゃん、それ、お供え物。もう食べちゃったの?」
先ほど聞こえた声のことなどすっかり忘れていた
「せめてもう少し待っててよ~。餌がもらえるとこだって覚えちゃったかな?てかやっぱり野良?」
駿太はしゃがんで犬の背中を撫でた
手が埋もれてしまうくらいフサフサだ
撫でると、手にお日様と土の匂いが移った
「野良でもないし、餌やりスポットだと思ってるわけではない。これは正当な権利の行使だ」
「・・・」
「クゥン」
「まさかねえ」
駿太は立ち上がって制服のズボンについた犬の毛を払った
「また見なかったこと、聞かなかったことにするのか?一体いつになったら俺の言葉を信じるんだ」
駿太は立ち止まって振り返った
犬が駿太見つめていた
駿太も犬を見つめた
駿太が犬を指差すと、犬がうなずいた
「やっとわかったか」
「えー?!」
駿太の声が、朝の町にこだました
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