使い神

1/2
前へ
/239ページ
次へ

使い神

「朝話そうとしたんだけど、ばあちゃんがお供え物をしてた祠さ、何を祀っているか、母ちゃん知ってる?」 「何、突然」 「いや…」 まさか、犬が出てきて話しただなんて言えない 「コノハナチルヤヒメじゃないの?」 「へ?」 「わたしは昔そう聞いたわよ」 「コノハナチルヤヒメ…」 「古事記?とかに出てくるんじゃなかったっけ?」 友子はそう言って、インスタントの?味噌汁をすすった ※※※※※※※※※※※ 翌日は、もう1枚のプレートに、昨日と同じように、お弁当のおかずの残りとご飯をのせて、祠に持っていった 前日のプレートは舐められたかのようにきれいになっていた これは持ち帰って洗い、明日使う 「ワンちゃーん…」 猫の額ほどの広場である 犬がいれば着いた瞬間にわかる だが、昨日もその前もそんな気配はなかったのに突然出てきたのだ 今日もそうかもしれない 期待に胸を膨らませた 「昨日はよくも連れ帰ったな」 ドスの効いた声が聞こえて驚いて振り向くと、駿太の後ろに犬がちょこんと座っていた 犬は悠然と歩いてくると、新しいお供えの臭いを嗅いですぐに食べ始めた 「ワンちゃん、帰ってたんだね!昨日はどうしていなくなっちゃったの?」 駿太がそばに座って聞くと、犬はガツガツと食べながら 「俺の家はここだ」 と言った 「食べながら喋れるんだ?!」 「んなわけあるか。犬と人間では声帯の作りが違う。俺はいま、お前の頭のなかに話しかけている」 「おお~ファンタジーだ!」 駿太は自分の身に起こっていることを疑いながらも、非日常の出来事にワクワクしていた 「ところで、君の名前は?」 「フフ」 「ふふふ」 駿太がつられて笑うと、 「笑ったんじゃない。俺の名前だ」 「フフ?」 「そう」 「何それかわいい!」 駿太はフフを抱き締めた 野良犬とは思えない毛触りと匂いに、思わず顔をうずめた 「こら!無礼者!俺は神の使いだぞ!」 「そうなの?」 「そうだ。我が主は大山祇神(オオヤマヅミノカミ)(ひめ)の一人、木花知流毘売(コノハナチルヒメ)である」
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!

108人が本棚に入れています
本棚に追加