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ラジオの定期放送が終わり、僕とジョニーは街へと向かった。
閑散とも混雑ともいえない人の波が常にある。二人は映画館に入り、チケットを買ってからポップケーキとコーラの値段を確認する。
「へえ、コーラはまだあるんだ」
ジョニーの一言に見覚えのある店員が愛想よく対応した。
「世界が一週間後に終わっても、コーラはまだ扱っていますよ」
気をよくしたジョニーがコーラを、僕がポップケーキを購入する。スクリーンの前には何人かが座って待っていた。顔ぶれは変わることがない。事情を知らない人が見れば、座り心地のいい椅子に尻を縫い付けられて動けないから顔ぶれが変わらないのだと思うだろう。
二人は映画が始まるまで眠っていた。上映開始ブザーで目を覚まし、映画広告を挟んでから物語は始まった。
国家があった時代。北米大陸の小国に暮らす四人の少年少女が映し出される。スクリーンは無機質なモノトーンからカラフルな光景に切り替わる。視覚がある程度退化しているため、多少の映像変化で体調不良を起こすことはない。シーンはヒナタの誘拐から始まる。少女の無垢な声が塞がれ、客席から悲観の声がする。
「可哀想なヒナタ。君はどこに行ったんだ」
パトリックの言葉。彼を先頭に四人が探し回る。ヒナタは見つからず、翌日になってツリーハウスに集まって話をしている。
「あの時、オレが目を離していなければ」
再びパトリックの言葉。反撃したのは弟のケリーだった。
「おれだってちゃんと目を向けていれば良かったんだ。兄ちゃんだけのせいじゃない」
主人公サミュエルはただ静かにそこにいる。ポーラを慰めて、それでも泣く彼女に対して何も出来ない自分自身に怒りを向けているのかもしれない。死んだような目をして、宙と地面を見比べ、彼女と兄弟にも視線を送る。四人に選択肢はなかった。
ロードムービーのような光景というより、仮想空間を行き来するかのような突飛な話が飛び込んでくる。カジノでいかさまを見抜き、時には無人島でサバイバル。火星に飛び立つ話もあったが、ジョニーとハッチはそれを受け入れている。
エンドロールを迎えてから僕とジョニーは席を立ち、カフェテラスでコーヒーを頼む。
「あの映画。僕は何回も見ているけど、今日は特別に面白かったな」
「そうだな」
だけどさ、とジョニーが付け加える。
「あんなシーン、あったかな?」
「え、どこ?」
「終盤でヒナタが自殺するシーンがあるだろ。あれ、本当に死んだかわからないままで物語は終わるんじゃなかったか?」
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