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僕とジョニーが住む部屋の電話が鳴った。
「はい、ラジオメイトです」
僕が事業者名を名乗ると、相手は「私の番号を忘れたのかい?」と尋ねた。ディスプレイにはあの時から変わらない電話番号が表示されている。
「サミー。元気そうで何よりだ」
「いつもラジオを聞いているよ。パトリック」
「それは何よりだ」
「私たち四人。出来ればジョニーを連れて五人でいつもの場所で会いたいんだ。君には迷惑をかけるかもしれない。どうだろう?」
僕は頷いて了承した。
「ただ、条件がある。三日だけ待ってほしい。弟の試合を観に行きたいんだ」
「それなら私たちも観に行ってもいいかな。三日後の試合はデーゲームだろう?」
「ああ、そうだ」
「試合の後であの場所に行こう。彼女も喜ぶはずだ」
ハッチはあの時のことを思い出しながら言った。
「そうだった。ヒナタは弟が好きだったからな」
スタジアムはほぼ満員だった。
ケリーが所属するサッカーチーム「ワイルドギース」と宿敵「アビゲイルズ」の一戦は死闘と表現するにふさわしい試合だった。
試合は僅差でアビゲイルズに軍配が上がったが、私たちに義憤や悔しさと言った感情は全くなかった。試合終了後のミーティングを監督の計らいでケリーだけ抜けてきて、僕たちはパトリックが運転する車で「あの場所」へ向かっていた。
山道を抜けて、小高い山を一つだけ越え辿り着いた思い出の場所は、十四年前と全く変わっていない。街を見下ろせる標高八百メートルほどの「蝶舞山」の展望台には五人が横一列に座ってもまだ余裕があるほどの長いベンチが置かれていた。
この山はかつてオーブリー家の所有物だった。山全体が遊び場として開放されて、あの時の私たちは山菜採りやキャンプなどをしたものだった。ヒナタが死んでからは家庭環境も家計も悪くなったため、オーブリー家は土地を売却し、僕らの遊び場は他人へと行きわたった。
車から降りた私たちは大きく深呼吸をして、軽く伸びをした。
「いい空気だね」
私の問いに他の四人が頷いた。
「なあ、兄ちゃん。さっきからずっと気になっていたんだけどさ」
ケリーが自分の頭を指さして言った。
「兄ちゃん、いつの間に坊主にしちゃったんだよ?」
パトリックは刈り上げられた短い金髪を撫でながら答える。
「何というか、一度やってみたかったんだよねえ」
「兄ちゃんはいつも気が向いたら『一度はやってみたい』って言うよな」
ポーラが「ほら、あそこ」とベンチを指す。
「久しぶりにみんなで座りましょう? ほらジョニーも一緒にさ」
ジョニーは気恥ずかしそうに頷く。
「あの時はオーブリー家の所有物だったから、俺達平民はあんな玉座に座れなかったんだよなあ」
「何言ってるのさ。六人だと窮屈でしょう?」
ジョニーはぶつぶつ何かを言っていたが、街の方を見てからため息を吐いた。
「すげえや。街が光って見える。空もオーロラみたいだなあ」
茜色から紫に移り変わる空と地上を交互に見比べながら、私たちはベンチに腰を据えた。
「それじゃあ、昔話を始めよう」
私たちは記憶を辿り、十五年前の「発端の出来事」を思い出していた。
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