夜明けの蝶は街を見下ろす

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 ねえ、覚えている?   ラジオから聞こえる声が、僕の耳を通り抜けていく。  世界の終わりが七日後に迫っている。しかし、人間はレミングのように集団での死を選ばない。僕らは「世界の終わりに何をしたいか?」と市民に訪ねて回っている。「サッカーがしたい」という者がいて、「山から景色を見たい」という者がいる。変わりどころでは「少年少女の頃に戻りたい」と言う者がいた。 「少年少女の頃に戻って、ツリーハウスでおしゃべりをしたいのです。空想にふけって、好きだったあの子への思いを抑えながら生きていたあの頃に、私は戻りたいです。ねえ、あなたは覚えていますか?」  僕はラジオスターのハッチとして生きている。長い金髪をもてあそび、機材の確認をする。相対する相棒のジョニーが束ねた髪を撫でながら、愉快そうに笑っている。僕らは世間から圧縮されたかのような一室で古い書物を読みながらあれこれ議論をしている。書物と言うが、一般的に解釈するならこれは紙の束だ。インクの集合体と紙の匂いに二人は酩酊しているのかというほど恍惚としている。 「以上、街行く人のインタビューでした。我々は七日後、まあ一週間後には消えてなくなっちゃいますけどね? どう思うよハッチ」 「ジョニー。僕たちは本当に消えるのかい?」 「消えるね。世界がそう断言しているから」  僕らはこうして世界が終わる瞬間を見届ける。しかし、気になることがあった。 「あの時のことを覚えていますか? って、一体何のことだろう?」 「おいおい、忘れちゃったのかい?」  ジョニーの茶化しに、僕はへらへら笑う。
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