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俺は腕時計を見た。
時刻は8:50を示していた。
無駄な20分。
それは仕方ない。
俺はようやく駅に向かえるのだ。
カバンをギュッと握ると、駅へ足を向けた。
しかし、カバンが何故か前に進まなかった。
後ろを振り返ると、柄本さんがカバンを掴んでいた。
何、何、何?
もう用事は済んだでしょう。
柄本さんの家には犬はいなかった。
それで終わりじゃないか?
俺が口を開きかけたとき、柄本さん不意にカバンを離した。
反動でカバンを持つ手がブランと振れた。
「いや、だから・・・」
「・・・まだ、終わってないよ」
柄本さんは俺の言葉に被せ気味に言った。
は?・・・終わってない?
何が?
「誰が犬を飼っているのか・・・飼い主がまだ見つかってない」
柄本さんは人差し指をアパートに向けた。
俺は視界が暗くなった。
俺は飼い主が見つかるまで柄本さんに付き合わされるのか?
勘弁してくれよ。
俺の成功がどんどん遠のいていく。
「柄本さん、これは何かの間違いってことだってある。飼い主なんて探すだけ無駄だ!」
俺は柄本さんを説得するつもりで捲し立てた。
しかし、柄本さんは表情を崩さなかった。
そして、いつものニヤけた顔でこう言った。
「何かの間違いかどうかは、実際に飼い主を見つければ分かる」
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