一〇一

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俺は腕時計を見た。 時刻は8:50を示していた。 無駄な20分。 それは仕方ない。 俺はようやく駅に向かえるのだ。 カバンをギュッと握ると、駅へ足を向けた。 しかし、カバンが何故か前に進まなかった。 後ろを振り返ると、柄本さんがカバンを掴んでいた。 何、何、何? もう用事は済んだでしょう。 柄本さんの家には犬はいなかった。 それで終わりじゃないか? 俺が口を開きかけたとき、柄本さん不意にカバンを離した。 反動でカバンを持つ手がブランと振れた。 「いや、だから・・・」 「・・・まだ、終わってないよ」 柄本さんは俺の言葉に被せ気味に言った。 は?・・・終わってない? 何が? 「誰が犬を飼っているのか・・・飼い主がまだ見つかってない」 柄本さんは人差し指をアパートに向けた。 俺は視界が暗くなった。 俺は飼い主が見つかるまで柄本さんに付き合わされるのか? 勘弁してくれよ。 俺の成功がどんどん遠のいていく。 「柄本さん、これは何かの間違いってことだってある。飼い主なんて探すだけ無駄だ!」 俺は柄本さんを説得するつもりで捲し立てた。 しかし、柄本さんは表情を崩さなかった。 そして、いつものニヤけた顔でこう言った。 「何かの間違いかどうかは、実際に飼い主を見つければ分かる」
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