一〇一

12/175
前へ
/175ページ
次へ
いつもこうだ。 何だかよくわからないことに巻き込まれて、気づけば徒労に終わる。 成功さえすれば人生が全てうまくいくのに・・・。 成功しないから人生が全てうまくいかない・・・。 あの先輩はきっと成功したから・・・。 柄本さんは返事を待つような表情で俺をじっと見つめていた。 はぁ・・・。 午前中いっぱいは柄本さんに付き合うしかないか。 でも、昼になったら俺はどんなことがあっても駅に向かう。 今日は元々休みだし、午後から仕事したって問題は無いだろう。 俺はカバンを持ち直すと、ハンカチで顔を拭った。 「柄本さん。午前中いっぱいは柄本さんに付き合います。でも午前中までです」 俺は柄本さんに最大の譲歩をした。 本音を言えば、俺は誰がこのアパートで犬を飼っていようが知ったこっちゃない。 貼り紙を見た飼い主がこのアパートで犬を飼うのをやめればいいだけだ。 今のところ俺が迷惑を被っているわけでもない。 ルール違反は少しは気になる。 でも、そんなことは基本的にはどうでもいい。 誰がルール違反をしようが俺には関係がない。 柄本さんは再び郵便受けに向かうと、人差し指を動かしながら何かを確認し始めた。 「何してるんですか?」俺は柄本さんの肩越しに郵便受けを見た。
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加