一〇一

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「いや、ただ誰がこのアパートで犬を飼っているのかはっきりさせたいだけです」 俺は俯いている阿閉さんに言った。 阿閉さんは黙ったまま、小さく咳をした。 もしかして阿閉さんは本当は犬、飼ってるのかな? 小さな疑問が急に頭の中に湧いた。 それに、阿閉さんはどうしてドアチェーンをしたままなのだろう? 犬を飼っていないと証明したければ、ドアチェーンは外した方がいい。 要らぬ誤解を招くだけだ。 阿閉さんがドアチェーンをしたままの理由がよく分からない。 いや、ただ単に俺たちが不審だからと言われればそれまでだ。 ただ、俺にはドアチェーンが他人を締め出す心の鍵のように見えた。 「ドアチェーン、外していただくことは出来ませんか?」 俺は阿閉さんにダメ元で聞いてみた。 柄本さんはニヤニヤしたままだった。 「も、もし、このドアチェーンを外したら、お二人を死ぬまで呪います」 阿閉さんは今までにない強い言葉で言った。 俺は阿閉さんの言葉に呆気に取られた。 阿閉さんは言い終わるとまた俯いた。
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