一〇一

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え?俺、今何かまずいことでも言ったか? 阿閉さんの今の反応は普通じゃなかった。 柄本さんは目を剥いていた。 阿閉さんからはただならぬ気配が漂っていた。 このドアチェーンは阿閉さんにとってそんなに大事なのか? 俺はもはや阿閉さんが犬を飼っているかどうかなんてどうでもよくなっていた。 ドアチェーンに触れたことを後悔した。 俺たちは誰でも触れて欲しくないことがある。 それに触れれば自分が自分でいられなくなるようなことだ。 このドアチェーンがきっと阿閉さんのその触れて欲しくないことだった。 今の反応・・・。 阿閉さんの心の奥底にはきっと何かの傷があるのかもしれない。 その傷がこのドアチェーンとなって表れているのかも。 だから、俺がこのドアチェーンに触れたときに、阿閉さんはあんな反応を・・・。 阿閉さんの心の奥底に一体どんな傷があるのか。 そして、その傷が阿閉さんにどんな影響を及ぼしているのか。 それはドアチェーン越しに見る阿閉さんからは窺い知ることが出来なかった。 「権力さえあれば・・・・」 阿閉さんがまた呟いた。
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