一〇一

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俺は振り返った。 見覚えがあるような無いような老人が背後で俺を見上げていた。 「何ですか?どういうことですか?」 俺は相手がどう出るかを確かめるように尋ねた。 「いや、だから。あなたもこの貼り紙、気になります?」 老人は若干苛立っているようだった。 あぁ、そういうことか。 この老人も俺と同じことを考えていたということだ。 きっとこのアパートにルールを無視して犬を飼っている住人がいるんじゃないかと。 だとすると、この老人はこのアパートの住人か。 「そうですね」 そう言いつつも、俺はこの老人こそ犬を飼っているんじゃないかと疑った。 自分から疑いを口にすることで、疑惑から逸れることを狙っているという可能性もあった。 「あなた。じゃないですよね?」老人は一歩間合いを詰めた。 俺は背後に郵便受けがあるせいで、老人が近寄るのをただ黙って見届けるしかなかった。 「もちろん俺じゃないですよ。まさかあなたじゃないですよね?」 俺は牽制の意味も込めて、老人に疑いを掛けた。 老人は何も口にすることなく、また一歩間合いを詰めた。 なんだ。 この老人はなんでこんなに間合いを詰めてくる? 俺はこの場から立ち去ろうとして、カバンをぎゅっと握り締めた。 老人はゆっくり手を延ばした。 俺は反射的に老人の手を避けた。 「いや、郵便受け・・・。開けたいから」 老人はそう言うと一〇一号室の郵便受けを開けた。
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