一〇一

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「あなたの家。確認してもいい?」老人は今度は満面の笑みでこちらを見た。 俺の家を確認!? 犬がいないかどうか確認するってこと? めんどくさ! 俺はさっさとこの老人に家の中に犬がいないことを見せて事態を終わらせるか、それともこの老人を無視して立ち去るか迷った。 普通なら家を見せるのは嫌だ。 しかし、この老人がそれで納得するだろうか。 むしろ、家を見せた方が事態が早く終わるんじゃないか。 俺はそう思った。 「分かった。俺の家を見せればいいんだろ?言っとくけど犬はいないからな」俺は老人を連れて階段を上がろうとした。 「いいよ。分かった」老人はあからさまに残念そうな顔をした。 何? 俺が今、家を見せようとしたから納得したってこと? ついてる。これでもう終わりだ。 俺は階段から足を下ろした。 「じゃぁ、仕方ない。わたしんち見なよ」老人はまた上目遣いで俺を見た。 え? いやいやいや。 そんなこと望んでませんから。 確かにあなたを疑ったけど、心の底から疑ったわけじゃないです。 別にあなたの家なんて見たくないから。 俺は大急ぎで思考を巡らせた。 「いや、それはいいです」 なんとか言葉になった。 「いいの?わたし、犬を飼ってるかもしれないよ?」老人はニターッと笑った。
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