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一〇一
鏡に映った姿を確認した。
ネクタイは曲がってないし、ポケットも出てない。
荷物は昨日のうちに準備した。
窓が閉まっていることを確認して、電気を消す。
綺麗に磨いておいた革靴を履くと、左手でドアを開けた。
今日は土曜日だが、こういうところで同僚と差がつく。
リモートワークが主流になり、残業も禁止になりつつある。
しかし、任意で会社に行くことも出来た。
入社して二年目だが、同僚との間に成績の差が表れてきた。
いかに休みに仕事をするかがその差を埋めると思っている。
若いうちは体力があるのだから、休みは返上してこそ成功できるというものだ。
俺は鍵を閉めると、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、頭上に気をつけながら階段を降りた。
駅に向かおうとして、ふと郵便受けが気になった。
そういえば昨日は郵便受けを確認していなかった。
踵を返し、アパートの入り口に並んだ郵便受けを目指した。
腕時計を見る。
時刻は8:30を示していた。
どうせ今日は休みなんだ。ゆっくり行ったっていいだろ。
日差しが照る中、「八王子」と名前の書かれた郵便受けを開けた。
何も入っていなかった。
何も入ってないなら入ってないでいい。
気がかりが一つ減るだけだった。
郵便受けを閉めて、おもむろに視線を上げた。
家主からの掲示板が目に入った。
普段はそこには何も貼られていない。
しかし、今日は一枚の紙が貼られていた。
普段は何も貼られていないことに慣れていたので、
しばらく紙が貼られていることを認識できなかった。
意識が紙に向かうにつれて、そこに書かれた言葉が言葉として浮かび上がった。
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