覚えていない

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「荻原高校15期3年4組同窓会」の二次会が終わり、居酒屋は水を打ったようにいきなり静まり返った。店の中にいる客は吉田一人のみである。店の遥か遠くでは「三次会行くぞーッ!」「四次会だ!」などと、久々に再会した旧友(とも)達の終わらぬ酒池肉林を予期させる喧騒が繁華街中に響き渡るのであった…… やっと静かになった。吉田は一人で黙々と生中と酒盗の往復を続けていた。酒が頭の中を回り、高校時代(かつて)を思い起こさせる。吉田は「何故か」はわからないが高校時代に所謂孤独の状態であった。特に親しい友人もおらず、休み時間は眠ったフリをしながら机に突っ伏すだけの三年間であった。このようにいい思い出こそなかったが、十年を過ぎた現在(いま)になって同窓会の誘いがあったことは「こんなぼくでも覚えてくれる奴がいた!」として心の底から嬉しく感じていた。だからこそ吉田はこの同窓会を心の底から楽しみにしていたのである。 しかし、それも自分の勘違いで棒に振ってしまった。吉田はその悲しさを心に秘めながら、薄暗い照明を涙で滲ませ、上を向き涙が溢れないように生中を呷るのであった…… ちなみにだが、今回「荻原高校15期3年4組同窓会」に参加した者の中で吉田の顔、いや、存在を覚えている者は誰一人として存在しない。仮に吉田が勘違いをせずにこの同窓会に参加出来ていたとしても、間違って参加した「萩原高校、15期3年4組同窓会」と状況は何も変わらなかっただろう……                             おわり
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