アオイくんとソラちゃん

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「よっ。あべこべコンビおはようさん」 「相変わらず仲良いなー」 なんて、高校入学して間もないのにすっかり僕たちの扱いは定着してしまっている。 中学の頃も散々からかわれてたからこういうものと、僕は受け止められるけれど。 酷いときには女装男子みたいに言われて、ソラちゃんは傷付いていないかな……? 「ん? どうしたのアオイ」 「う、ううん。何にもないよだいじょうぶ」 「……そう。ならいいけど」 誤魔化してしまった。 でもこんなこと今この場で話していいことじゃないから。 ちょっと怒らせてしまったのかソラちゃんは繋いだ手をぐんぐん引いて進み出した。 男女が手を繋いでいることとか。女子が前で男子が尻に敷かれているみたいにひっついていることとか。 制服こそ逆だけど顔も雰囲気もお似合いだとか。 それがもう当たり前のように受け入れられて、楽しそうな声が僕たちを取り囲むんだ。 「別にイヤじゃぁ、ないんだけど」 「何か言った? アオイ、教室に着いたよ」 「ふぇっ?」 あ、本当だ。 リードされるがまま、男の子として思うことがないわけじゃあ、ないけど。 1−B。僕たちが高校生となって最初の一年を過ごす教室。 小学校、中学もご近所さんらしく一緒に過ごすことができたけれど。 この学校は、高校受験は。ソラちゃんと一緒にいるために本気で頑張って乗り越えたんだから。 毎朝ここに来る時は、いつまでもソラちゃんに引っ張ってもらっていたらダメ、とちょっぴり気合いを入れるのだ。 「って、あの、えっと」 「もういいかしらアオイ。意気込む様子も可愛いからいいんだけど」 「な、なに言って──じゃなくて。ええと、その、僕の気のせいなら、いいんだけど」 「何が?」 何がってほら、教室のドアが光輝いてません? ここまで輝いた木製の扉を初めて見たよ。 年季が入ってボロボロの。神々しさの欠片もなくて、ただただ眩しいです。 「さあ、覚悟はいいかしら?」 「ふぇっ!?」 「分かるでしょ、アオイ。この扉を開けたらきっと、未知の世界へ旅立つことになるって」 「ふえぇぇ!?」 どうやらソラちゃんは興奮しているようです。 そういえばライトノベルとかケータイ小説とかよく読んでるって。結構感想聞かされていましたね。 誰よりも女の子女の子した少年が異世界に行って、ついでに女の子なっちゃって、色々あって幸せに暮らしているお話だとか。 スポーツ万能な少女が勇者として喚ばれて、魔王だけじゃなくて一目惚れした美少女こと召喚主のお姫様も攻略してしまうお話だとか。 恋愛が好きなのかファンタジーが好きなのか。 ヒロインがとにかく可愛いという言葉は何度も聞いた覚えがあるよ。 「って、これって本当に現実なの?」 「野暮なことを言うわねアオイは。気付いてないの?」 「ほぇ?」 「ここはもう校舎と言う名の異空間。私達は選ばれたのよっ!」 「……ふぇ」 さっきまでの賑やかさはどこへやら。 無駄に光っている扉とソラちゃん、そして僕。 どくんどくんと自分の心臓の音がこんなにうるさいなんて思っていませんでした。
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