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「もうお嫁に行けない」
「何を言ってるんだ。俺の嫁に来てくれるんじゃないのか?」
「っ……もぅ、ソラくんは本当に」
何もかも本気なんだろうねこの人は。
今のうちに慣れておかなきゃ、この先ずっと振り回されっぱなしになっちゃうよ。
「それにしても、やっぱりソラくんは変わったよね」
「そうか? うーん、アオイが言うならそうかもな」
「うん。変わったよ」
どんな時も凛々しくってというのは変わらないけれど、ここまで自信家じゃなかったと思うんだ。
「だとするなら、アオイの影響だろうな」
「ふぇ?わ、わたし?」
俺様ぶりを人のせいにしないでよ、って言いたかったんだけど言えなかった。
ゆっくりと話し始めたソラくんが見慣れた優しい笑顔を向けていたから。
「たとえどんな姿でも“私”はアオイのことが好きだったわ。自信がなくて、でも頑張ろうとする可愛いところも。男女とからかわれていた私に向ける優しさも」
そ、そんなことないよ。“僕”のほうが助けてもらってばかりだったよ。ソラちゃんがいたから、頑張れた。
「だけどね、好きだからこそちゃんと好きって言ってほしかった。カワイイ乙女心じゃない?」
「ソラちゃん……」
「ふふっ。まあいいのよ。アオイもアオイであのままだと決心が付かなかっただろうし。どうせ僕よりソラちゃんのほうがカッコイイから相応しくない、とか思ってたんでしょうけど」
「あぅぅ」
大好きだし一番でいたいと思ってた。でも、いつかは素敵な人現れてがソラちゃんを幸せにするんだろうなとも思ってた。
ばーか。そう言ってソラ“くん”は軽々と“私”を抱き上げる。
「こうなったからにはもう躊躇しない。アオイは俺だけのものだ」
「う、うん。いいよ。私はソラくんのものだよ」
恥ずかしいのは恥ずかしいけれど、それも今さらかもしれないね。
この時初めて、私からキスをした。
チリンチリーン。
ベルの音にハッと我に返る私たち。
わ、私ってばこんなところで何をしようと。
やっぱりダメダメ、流されるのは良くない。流されるな、ダメ、絶対。
というかベルの音っていったい誰が──
「お楽しみのところ申し訳ありません」
「「ち、違いますっ!!」」
ここに来て初めて出会えた人、メアリーさんだった。
そういえばこの人が出て行ってからどれだけの時間が経っていたんだろう。
ちらりとソラくんを見るとバツが悪そうにごめんと。戻ってくるのは聞いていて忘れてたみたいだった。
まったくもぅ。このくらいの年頃の男子は盛りのついたサル、と言われるのがよく分かるよ。
「食事の準備が出来ましたので呼びに来たのですが、よろしいですか?」
「いえいえ平気ですよ。それよりもご飯をいただけるってことですか?」
「積もる話ばかりですからね。まず先に腹ごしらえと、あとは食事を通して友好を深めようという趣旨ですよ」
「それは願ってもないですね」
「あ、ありがとうございますっ」
とても親切にしてもらってるのに何も言えないのは情けないよね。
初めてまともにメアリーさんに言葉を伝えることができると、メアリーさんもにっこり笑って頷いてくれた。
「それではご案内しますね。一応言っておきますが共に食事をするのは我が国の王と王妃、この国の最重要人物にございます」
「「えっ……」」
「ああ、どうかお気になさらずに。お二人には我が国の事情など関係ありませんから。何も知らない方に礼儀を求めたりなどしませんよ。ただ良き相談相手になることが出来たら、というのが我が君のご要望です」
えっ。いや、気にしないでって。ええっ!?
さすがのソラくんも驚かずにはいられなくて、二人して身を縮め、繋いだ手だけは離さないようにしてメアリーさんの後を追うのだった。
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