第2夜「たきちゃん」

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第2夜「たきちゃん」

「ユウくん、おかわり」 「たきちゃん…そろそろやめた方が…」 「うるさいわね!ユウくんは酒作ってりゃ いいのよっ!!」 荒れてるなあ、今夜のたきちゃんは…。 僕は仕方なく5杯目の「ジャック・ター」を 作ることにした。 たきちゃんはこの店「シエスタ」の2件先にある ゲイバー「ムーンライト」の 売れっ子ホステスさんだ。 ムーンライトのホステスさんは大まかに言うと 2パターンのタイプがいる。 1つ目は女子以外には見えないほどの完璧な ニューハーフタイプ。 そしてもう1つは「汚れ」と言われる、 おっさんのままのホステスさんだ。 たきちゃんは後者のタイプだが、 底抜けに明るく、ズバズバ物を言うところが 大人気のホステスさんでもある。 少年タイプの男性がお好みで 実は僕も少し口説かれたことがある(笑) ただ、生物学上は女の子であることがすぐにバレて たきちゃんのラブコールは終わりを告げた。 「ユウくんがガチ男の子だったらマジで タイプなのに〜」 「ハートはガチ男の子なんですけどね」 「でしょう?あ〜〜ん!!自分の性が 時々歯がゆくなるのよお〜!!」 そんなたきちゃんがマジで恋したのは 本当にキレイなガチ男子の涼くんだった。 涼くんがたきちゃんの愛を受け入れたのかは 僕にはわからなかったけど、 駆け出しのモデルだった涼くんは たきちゃんと一緒に住み始め、たきちゃんから 手厚いサポートを受けていた。 2人でシエスタに来てくれた時もあって、 その時のたきちゃんはとびきり幸せそうだった。 甲斐甲斐しく涼くんの世話をやき、 涼くんも大人しく世話をやかれていた。 それなのに… 「…出て行ったのよ。突然」 「仕事の関係とかじゃ…?」 「それもあるかもだけど、1番高い時計だけ 持っていった」 ああ…あの、高級車1台分くらいの値段の…。 「携帯に連絡したんですか?」 「置いていったの!」 「置いていった…??」 「鳴らしたら、ダイニングテーブルの上に あったのよ」 あちゃ〜… 「こんな日がいつか来るだろうとは思ってたけど、 挨拶と携帯くらいは持っていけよっての!!」 そのままたきちゃんは カウンターにうっぷして、わんわん泣き出した。 今のたきちゃんを癒せるカクテルは 「涼くん」なんだろうな…。 僕は「ジャック・ター」のグラスを たきちゃんの側にそっと置くと、 小さく溜め息をついた…。
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