第4夜「弥子」

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第4夜「弥子」

拓海と共にシエスタにやってきた、 その勝気そうな女の子は、珍しそうに 店の中を見回していた。 僕が「いらっしゃい」と拓海に声をかけると その子は「ユウ…」と言いながら 僕の顔を凝視した。 あ〜…この光景は… 前にも経験が、ある(苦笑) その時はビアンのカップルで その「彼女」が僕を好きになって 「彼氏」である彼女が乗り込んできた時…。 (なんか、ややこしいな) 僕はビアンではないのだが、 説明しても、なかなかわかってもらえず しばらく苦労したっけ… …ってことは、 拓海は…そうなのかな? それは僕を男の子として? それとも女の子だとバレたのかな? ただ、拓海の彼女である弥子は 僕を見た途端、その瞳から 敵意の感情が消えていた。 どうも僕が女の子の体を持つ男の子だと、 すぐに気づいたみたいだ。(鋭い…) そして話すうちに 僕は拓海以上に弥子のことを 友達として好ましい相手だと思った。 弥子はとてもサバサバとした物言いをするが、 僕に対しての配慮を忘れなかったから…。 僕たちのような人間は 悪意のないノーマルな人たちによって 一番傷つけられやすい。 そこを乗り越えないと、生きてはいけない。 そうわかってはいても、 小さな傷は日々増えていく。 だから、弥子のような女の子に出会えたことを 拓海に感謝しなきゃ。 拓海は拓海で、僕を男の子だと思い その上で好きになってくれたのだと知った。 拓海が僕を男の子だと認めてくれたことが 何より嬉しかったんだ。 仲良くなった僕たちは乾杯をしながら、 楽しく話した。 弥子に作ったモスコミュールは 楽しいカクテル言葉が好きなカクテルだ。 「ケンカをしたらその日のうちに仲直り」 2人にぴったりな言葉だと思った。 僕から見ても、2人はお似合いで、 別れなくていいんじゃない?と言ったけど、 どうするのかな?(笑) …今夜も美玲ちゃんは来なかったけど 寂しさはこの2人が埋めてくれた夜だった…。
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