第6夜「若菜さん」

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第6夜「若菜さん」

オーナーの奥さんである若菜さんは 僕と同じトランスジェンダーだ。 男性だった若菜さんは、幼い頃から 自分の中にある女性と肉体の男性との差に ずっと苦しめられて育ち、 20歳の時に家を飛び出して上京。 夜の仕事でお金を貯めてタイに飛んだ。 そして命をかけて体を女性にして帰国。 「性同一性障害」の診断をもらい、 ためらうことなく、女性の戸籍を手に入れた。 「ユウくんのおかあさんみたいに、家族は誰も あたしのことを理解はしてくれなくてね…」 だから僕みたいに戸籍を変えることに ためらったりはなかったのだそうだ。 「だからね、克己(かつみ)さんに出会った時は、 この世で唯一あたしの味方が現れたんだって 死ぬほど嬉しかったんだ…」 オーナーと若菜さんのなれ初めは いつ聞いてもステキだと思う。 僕も美玲ちゃんとそうなれたらいいけどな… 「頑張んなさい、片想い。それもまた ユウくんの人生の糧になるはずだから」 人生の糧、かあ…。 そこまで僕は美玲ちゃんを 想い続けられるだろうか…? 「こんばんは…」 あ、美玲ちゃんだ。 やっぱり今日もかわいいな(えへへ…) どうして僕がこんなに美玲ちゃんのことを 好きかと言うと… それはまた次の夜に話そうか。 「こんばんは。何飲む?」
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