降り注ぐ月組

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降り注ぐ月組

いつも思う。何故に隠れ家を構えたのかと。 年中湿り気を帯びた土は踏めばねちゃねちゃと音を立て、生温い空気は息をするのも嫌になる。 “隠れ家”なので隠す為にこんな樹海を選んだのだろうが、いまだに俺はここに一人で放って置かれると迷う自信しかない。 「この度の任、禄を一番多く貰えるのは葬助かのう?」 「その次は滝口さんでしょうか?」 金の話をする大人たちを最後尾でぼんやりと眺めていると波太郎が隣に並ぶ。 「なぁ葬助。お前がに入ってもう半年位だろう? それなりに任務もこなしてきたけどさ、金ってどうしてんの? ためてんの?」 「……お前は?」 「おれは2年位いるけど全くたまらねーよ。すぐ使っちまってさぁ」 そういえば波太郎の部屋はごちゃごちゃと物が散乱してたな。 薬研(やげん)に薬草、そして小難しい医学書。これらの物は大文字さんの部屋にもあるが、兄貴の方は綺麗に整頓して置いている。 「で? 葬助は?」 「俺は──。」 目蓋の裏に女みたいな顔をした憎らしい男の姿を浮かべる。 俺の村を焼いて、俺の両親を殺した男。 「殺して、強くなりたいだけだ。金なんてついでだよ」 「そうなの? まぁ葬助の部屋は殺風景だしな。ならくれよ、金」 「やんねーよ」 「使わないならおれがちゃんと使ってやるからさ」 「だからやらねーって!」 自分では使わないが誰かに使われるのは癪だ。それにたまっていく金を見ると俺は修羅場を潜り抜けて強くなっているんだと実感することが出来る。 「おい、餓鬼共」 先頭を歩いていた慎さんが足を止めて振り返る。 喋るのをやめて前に進み出ると、目の前にはぽっかりと口を開ける洞窟。廃鉱だ。 木々の間に隠した松明を俺と波太郎とで1本ずつ手に持つと、慎さんは煙を喫む時に使う火打石と火打金で火を灯す。 ここからは波太郎と一緒に先頭になって坑道を行く。……ここも気を抜いたら直ぐに迷ってしまうので注意が必要だ。 右、左、その次はまた左、そして右……そんな分かれ道を気が遠くなりそうなほど繰り返したその時、開けた明るい場所に出た。 壁面のくぼみには貴重な蝋燭が惜しみな立てられており、毎度思うのだが一体ここだけでいくらの金がかかっているのだろうか? 飽きれながら松明の火を消していると、ふと気がつく。 「クスクス。帰って来たよ」 「クスクス。帰って来たね」 同じ顔をした童女が2人、手を繋いで俺たちを待っていた。 「生きて帰ってきたよ」 「しぶといのはいいことね」 不気味な何かを醸し出す2人の後ろには無骨な鉄の扉が聳え立つ。
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