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「……そうすけ、」
震える唇で答えると、男は首を傾げる。
「そーすけ、ね。字は?」
「……想い、助けるで“想助”」
この男は何を考えているのだろうか? 名など知ってどうする?
どうせ俺のことを殺すだろうに。
「ふーん、その生意気そうな面に似合わねぇ名だな。……そうだ!」
男はしゃがみこんで俺を覗き込む。
華やかな顔がぐっと近づいてきて、こんな状況だというのに心の臓がどきりと跳ねる。
「今からお前の名は葬儀の葬で“葬助”だ。こっちの方がらしくて洒落てるだろう? これからはそのつもりで名乗れ」
名を変えろだと? いやそれよりも、この男の口振りは まるで俺にこの先がまだあるみたいじゃないか。
訝しむ俺など尻目に男は相変わらず愉快にそうに続ける。
「俺は神石井 禅。疾風暗殺隊十五囃子の頭目だ。ちょうど今一人欠けていてな、お前を十五番目の囃子として歓迎しよう」
聞き馴染みのない言葉に眉を寄せる。結局コイツは何者だ?
「要するに傭兵集団さ。金の為に汚い仕事をするんだ。……どうだ? 楽しそうだろう?」
男の言葉に絶句する。
汚い仕事、それはつまり人殺しだ。それくらい餓鬼の俺にも分かる。
しかしそれは楽しいことなのだろうか? いいや、そんなはずはない。
「葬助、お前には素質がある。迷いなくこの俺に斬りかかってきやがった。お前はきっと好きだ、大好きだ。肉を裂いて、鮮血を浴びることが。だってお前はいい具合に汚い眼をしていやがる」
汚い目をしているのはお前だと言い返してやりたかったが、男の瞳に映る俺は確かに獰猛で鋭い目をしていた。
「ここで死ぬか、俺たちと殺しを楽しんで生きていくか……どちらかを選べ。そうだな、俺たちを選べば衣食住は保障してやるよ」
死ぬか、生きるか。
ついさっきまで死ぬのも悪くないと思っていたが、生き延びる手段が残されていると知ればそれにすがりたくなる。
俺は、死にたくない! これからも生きていたい!
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