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咲き誇る花組
「た、助けてくれ! 後生だから殺さないでくれ! 改心するから!」
涙と鼻水にまみれた顔でそう懇願するおっさんを俺は鼻で笑い飛ばす。
「俺はあんたを殺せと言われたからそうするまでだ。……とゆーかその口振り、あんたが大将だな?」
ツイている。本当に俺はツイている。
勝手口から侵入しろと言われた時はとんだ外れくじを引いたと思ったが、標的がまさか厨続きの炭部屋に隠れているだなんて思いもしなかった。
「今夜の大将首は俺のもんだ」
握った刀の切っ先を向けると、おっさんはひぃぃと短い悲鳴をあげる。
「と、殿に取って変わろうなどと私はどうかしていた! これよりは二心など決して抱かず、殿に忠誠を捧げることを誓う!」
べらべらとよく喋るおっさんだが、もしかして時を稼いでいるつもりだろうか? 家来が助けにくると思っているならおめでたい。あんたの仲間はもう誰も残ってやしないさ。
「そもそもお前はなんだ? 年端も行かぬ子どものくせに刀など引っ提げておって……」
「はぁ? 刀を持つのに大人も子どもも関係ねーよ。……そーいうあんたの得物はどこだよ?」
そう問うとおっさんは苦い顔をする。
……いやいや、屋敷が寝静まった頃に夜襲をかけたのは俺たちだ。
火事だと触れ回りながら場を混乱させたが、得物くらい持って逃げようぜ?
「ほんと呆れるぜ。よくそんなんで謀反を考えたもんだ。……まぁいいや。飛ばすぜ、その首」
「ぐっ、誰か……誰かいないのかぁ!!」
無駄でしかない叫び。思わずため息が溢れそうになったその時、廊下に続く木戸が勢いよく開く。
だが、問題はない。
「早くこの子どもを殺せ!」
戸が開くのに気を取られていると、おっさんは炭部屋から飛び出して乱入者の元へ駆け寄る。
……あのさ、それ救援じゃねーぞ?
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