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「うん? 葬助、お前こんな所におったのか」
現れた男は俺の顔馴染みだ。間違ってもこのおっさんの仲間なんかじゃない。
「まぁな。油さん、何人殺した?」
油坂 肆乃。
疾風暗殺隊十五囃子のひとりで、我らが花組の小頭だ。
最年長のいい歳こいた親父だが、かなりの手練だ。その証拠に油さんが手にする6尺程の十文字槍の刀身には血がベッタリと付着している。
「8人じゃ」
「はえーはえー。俺なんかまだ1人も殺ってねぇっていうのにさぁ」
「じゃが滝たちの向かった方角の方が騒がしかった気がするがのう」
「慎さんが? それって波太郎もじゃねーか! いいな、殺しまくりだな」
「ところで葬助、これは何だ?」
油さんが指し示すのは青白い顔で震えるおっさん。
「ああ、大将首だよ」
「なに、大将首だと?」
油さんの目がきらりと光る。
しまった、余計なことを言っちまった!
「葬助、儂に寄越せ! 報酬の取り分が増える! 酒が飲める!!」
「はぁ? ふざけんな油親父! この首は俺んだ!」
「ふんっ、早い者勝ちじゃー!!」
言うが早いか油さんは槍を構えておっさんに突進する。なんて大人気ないんだ!
こちらもを飛び出して刀を突き出す。
「ひっ、やめ、やめてくれ……やめ──がっ……!!」
ふたつの刃がおっさんの身体に突き刺さる。
油さんの槍は背中側から心の臓を貫き、俺の刃は真正面から首を突いて薙いだ。
得物を引き抜くと血飛沫が勢いよく舞って部屋を汚していく。ああ、腰抜けなおっさんのクセに綺麗な赤色だ。
「よし、俺が殺した」
側の机に置いてあった手拭きで刀身を拭いながらそう呟くと、直ぐさま油さんが口を開く。
「儂じゃけど?」
「……いや、俺だし」
「たわけめ、儂じゃ!」
「俺だってば!」
本当に大人気ない。手柄は年下に快く譲ればいいだろうに。
儂だ俺だと言い合っていると、油さんが開けっ放しにしている戸からひょこりと顔がのぞく。
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