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「葬助! 何人殺った?!」
場違いなまでに明るい声の持ち主は荻鏡 波太郎。
同い年の……まぁ友だちみたいな奴。波太郎の手にする刀もいい具合に血で濡れている。
「お前はどうなんだよ?」
逆にこちらから訊ねると、波太郎は部屋に入ってきて笑う。
「10人だ。……て、あれ? 葬助が殺ったの?」
転がるおっさんの死体を足で蹴る波太郎に俺はどう答えてやればいいのか分からない。
胸を張って俺が殺ったと答えたいのだが……。
「儂がやったんじゃ!」
胸を叩いて高らかに言い放つ油さんに対して殺意が湧く。この親父、何を勝手なことを!!
「何だ、油さんが殺ったのか~。それで、葬助は?」
「違う! 油さんじゃない、俺が殺ったんだ! しかも大将首だぜ?!」
「うっそ! すごいよ葬助!」
目を爛々とさせる波太郎を見ていると気分は悪くなかった。
……この親父がいなければ本当に。
「まぁ儂が殺ったんじゃがな! カッカッカッカッ!!」
「殺したのは俺だって言ってんだろ! ぶっ殺すぞ、油親父!」
「おい、どっちが本当なんだよ……」
目の輝きを消して胡散臭げに俺を見つめる波太郎。やめろ、そんな目で見るな。
……こうなったら。
「波太郎、ちゃんと視ろ!」
波太郎の腕を強引に引っ張ってしゃがませ、死体に近づけさせる。
「え、おれが視るの? こーいうの兄貴の方が得意なんだけど?」
「いいから早くやれよ」
「分かったよ~」
唇を尖らせて不服そうにしながらも波太郎は死体をじぃと観察する。
「傷痕はふたつ。胸の槍手に首の刀傷かぁ」
「俺と油さん同時に刺した。どっちが殺ったことになる?」
「……まぁ強いて言えば葬助かなぁ。葬助は突いてから薙いで確実に首の脈を切ってる。油さんは貫通はしてるけど心の臓からは少し外れてる」
……よしっ! 拳をぐっと握って油さんを見る。
「悪いな、油さん!」
「別に、儂8人殺ったし」
むかつく!! さっきまで意地の張り合いをしていたのに今度はあっさりと引き下がりやがった! 俺が馬鹿みたいじゃねぇか!!
小指を耳の穴に突っ込んで口笛を吹く油さんを睨んでいると、また誰かがやって来る。
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