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「やぁ、子ども達……と油坂さん。何人殺った?」
俺たちの間で定番になったその問いを口にしながら厨に入って来たのは爽やかな好漢で、名を荻鏡 大文字という波太郎の実兄だ。
愛刀は既に鞘に納まっているが、弟と一緒に行動していたのでそれなりの人数を切っただろう。
「私は20人だよ」
「流石は大文字さん。俺なんか足元にも及びませんよ」
嫌みでなく素直に感心していると、波太郎にぐいっと肩を組まれる。
「でも葬助の方がスゴいぜ兄貴! なんたって大将首だ!!」
「そりゃあ凄いじゃないか葬助。よくやったね」
子ども扱いされるのは好きじゃないが、大文字さんに褒められるのは嫌いじゃない。
荻鏡兄弟におだてられ上機嫌になっていると、ぬっと油さんが前に進み出る。
「荻兄、粗方済んだか? 滝はどうしておる?」
「発破をかける準備をなさってます。屋敷内に生き残りがいないかを調べてから出てこいとのこと」
「滝め、最年長たる儂をこき使いおって。許せん!」
「あはは、滝口さんは我らが花組の組頭ですからね。生き残りなんていないと思いますが、確認しながら表から出て行きましょう」
「というか、生き残りがおっても発破かけたら死ぬじゃろ」
油さんの最もな意見に思わず頷いてしまう。まぁでも慎さんは生真面目だからその辺融通利かない人だしなぁ。
「葬助、移動するならこのおっさんの首早いところ落とそうぜ!」
波太郎に言われてふと思い出す。大将首はちゃんと持って帰って証にしないとならない。
「なぁ、おれが首落としていい?」
「はぁ? こいつは俺が殺ったんだから俺が落とすんだよ」
「手柄は葬助のものでいいよ。おれそろそろ首を落とせるだけの力がついたと思うんだ!」
「俺だってそうさ!」
首を落とすのには相当の技量と力が必要だ。俺も波太郎も競うように斬首の訓練をしているがなかなか上手くいかない。
「お前たちにはまだ早いよ。私が落とそう。……油坂さん、すみませんが死体を支えてもらえますか?」
言い合う俺たちの間に入って大文字さんが言うと、油さんはニヤリと笑う。
「お前も儂をこき使うのか?」
「嫌だな、甘えているんですよ」
「カッカッカッカッ!! 物は言い様じゃな!」
油さんは死体を起こして頭を垂れさせる。
腰の刀を抜いた大文字さんはそれを大きく構えた。
「さて、上手く出来るかな?」
そんな拍子抜けなことを言うので俺と波太郎はずっこけそうになったが、油さんの方は笑えないだろうな。
「間違っても儂を切るなよ?!」
「努力はします。……ふっ!」
短く息を吐かれ、刃が振り下ろされる。ヒュンと刃鳴りがしたかと思うと、続いてゴンッと重い音がした。
身体から切り離された首が三和土に転がる。
「ふぅ~。緊張したけど何とかなるものだね」
まさに一刀両断。
いつか俺もこんな風になりたい──いや、絶対になってやる。
俺は、あいつの首を必ず落とす。
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