白雪の勧誘

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白雪の勧誘

深々と雪が降るとある寒い日、俺の村は戦火で燃えた。 真っ赤な炎は轟々と舞い上がって広がり、全てを飲み込み灰に変える。 地獄の様相を呈する村に背を向けて懸命に走った。 草履も履かずただひたすらに走ると、足の裏の皮が剥がれて雪の上に血色の足跡が続いていく。 崩れた家の下敷きになった父ちゃんから手渡された一振の刀はとても重く、何度も投げ捨てたくなったがこれが形見なのだと思うとどうしても気が引けた。 走って、走って、走り疲れて……遂に雪の中へと倒れ込んでしまう。 このままは俺は死んでしまうのだろうか? それならば父ちゃんや母ちゃんと一緒に死ねばよかった。 そんなことを考えていると、頭をコンコンと何かで叩かれる。 「……死んでんのか?」 上から降ってくる声に、ゆっくりと顔を上げた。 「何だ、生きてるじゃねぇか」 そう言って笑うのは一人の男。 出で立ちを見ると男と分かるが、顔だけ見るとまるで儚い女のようだ。 男は番傘の先で俺の頭をつついた後、それを自分の頭上に翳す。 「薄汚なくて目つきの悪い糞餓鬼だなぁ。こんな所で何やってんだ?」 何をやっている? ……この男、馬鹿みたいに呑気だ。 力を振り絞って、よろよろと立ち上がる。 。 俺はツイている。コイツを殺して衣服や金目の物を奪ってやろう。 コイツを殺して俺は生き延びてやろう。 強い喪失感をコイツを殺して埋めてやろう。 「死んじまえよっ!!」 鞘から引き抜いた刀をがむしゃらに振り回すと、男は目を見張る。 しかし、直ぐにその大きな眼を細めたかと思うと番傘をぶんっと振るって俺の手を激しく打ちつけた。 呆気なく手のひらから滑り落ちた刀は地面に刺さる。 一瞬の出来事呆けていると、鳩尾に強い衝撃を受けて後ろに吹き飛ぶ。 「危ねぇな。そんなモノ、餓鬼が振り回して遊んでんじゃねぇーよ。玩具じゃないんだぜ? 分かるか?」 胃の腑の物を口からぶちまけながら雪の上を転がる俺に男はまるで親のように説教する。……間違っても親は我が子の鳩尾に本気の蹴りをお見舞いしないだろうが。 「うん、でもまぁ悪くはねぇ。いいや、むしろいい。──おい餓鬼、は?」 にこにこと楽しそうに微笑みながらそんなことを訊ねてくる男の腹が全く読めない。 だがこの男は朗らかに笑いながらもとてつもない威圧感──いや、殺意を放っている。 男の問いに答えないと、俺は必ず殺されるだろう。
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