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「約束の時間になっちまった。話の続きは後だ。付き合え」
「え? あの、バッグ返してください」
「俺の正体を視ておきながら、ただで帰れると思ってんのか?」
くるり。振り返って彼は目を眇めて笑う。
「俺のこと、狐に見えるんだろ?」
その瞳は瞳孔が細長く、黄金色の目をしていた。
睫毛もよく見れば狐の毛並みと同じ色で、カラーリングやコンタクトだとしても精巧すぎる。
「俺の尻尾も耳も見えてるような女、いろんな意味で逃す訳にはいかねえ」
すたすたと歩いていく彼の後ろをついていく。物騒チンピラ狐さんはすたすたと長い脚のコンパスで、さっさときらめき通りの方へと向かっていく。
「あ、あの」
「安心しろ、カバンは返すし飯くらいは奢ってやる」
「こ、これってもしかして……世にいう同伴出勤ってやつですか!?」
がくり、と彼の体が下がる。
「馬鹿! どう見てもリクスーの小娘を同伴に誘う馬鹿がいるわけねえだろ!」
――『福岡あやかし転職サービス』
代表取締役 篠崎 頼(Rai Shinozaki)。
狐の模様が入った異常にかわいい名刺を渡されて、私はようやく彼が会社社長だと知った。
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