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「大将、いつもの」
「はいよー」
おじさんは奥に入っていき、しばらくしてきらきらと輝く細麺のうどんをだしてくれた。
鉋でひっかき模様が刻まれた小石原焼きの素朴な器に、透き通ったつゆと細麺と、繊細に刻まれたネギとおあげが乗せられている。
「いただきます」
味も薄味で上品で、鰹の風味がふわりと鼻を通り抜けて、ただただ美味しい。
「ん~っ……おいし……」
麺は博多のうどんらしくふわふわだ。
時折麺に絡んでくる天かすのしゃくしゃくの噛み応えが良いコントラストになっていて、ますます美味しい。
お腹がすいていたのと、久しぶりの外食の味に、私は夢中になって箸を進める。
お礼を言い忘れていたと気づいたのは、麺がすっかり半分以上消えてしまってからだ。
見ると、隣で篠崎さんが呆れたような目でこちらを見ている。口元は笑っていた。物騒な顔をしたお兄さんが笑うと、意外性があってちょっとドキっとする。
「美味いだろ」
「は、はい」
私は頷く。
「篠崎さん。先程は助けていただいて、ありがとうございました。しかもうどんまで……」
「別に。ルール違反の奴がいたら迷惑すんのはこっちの都合だ。うどんは口止め料に食っとけ」
「口止め料、ですか」
「そ」
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