第1章/猫又男子のお仕事探し

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 篠崎さんはうどんを啜りながら言った。そっけない口ぶりだけど、甘い汁をたっぷり吸ったお揚げをきゅっと吸いあげるときは耳がぴくっと揺れている。怖い顔をしているのに、やっぱり可愛い、と思ってしまう。 「こんなおいしいうどんをいただくほどの事では……まさか、天神駅前で猫又さんに騙されそうになった、なんて」  私は普通でいたい。そんな突拍子もない事、誰にも言えない。 「ばぁか。このご時世、ちょっとした噂ひとつがあやかしにとって命とりなんだよ」 「命取りといいますと……?」 「あんたが言わなくとも、あんたの身の回りの奴が『バカな友達の噂』として話を広める可能性はある。それだけでもまずいが、それを他の奴がSNSに書き込んだり、他の連中に与太話の一つとして話したりしたら?」 「それこそ、与太話の一つだから問題ないんじゃないですか?」 「ああ与太話だ。だがあやかしは、その与太話の中に姿を現す」  ぴし。と蒲鉾を挟んだ箸をつきつけられる。 「与太話のバカ話だろうが、いくつも集まれば点が像を結び、その道のプロはそこからあやかしのルール違反――猫又が天神駅で不法行為を起こしていたのを把握しちまうのさ」
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