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「何が」
「私の経歴で……その、あまりにホワイトというか……というか、私の経歴は見なくていいんですか?」
「履歴書入社してからでいいわ」
「雑ですね!?」
あまりにうまい話すぎて困る。
唐突に頭の片隅に、夕方の猫又占い師の姿が浮かぶ。
――もしかして、私は騙されているのかもしれない?!
「朝の掃除は8時半から。9時朝礼。掃除の時間も賃金はやるから安心しろ」
「あ、あの、まだ会社辞めてなくて」
「転職活動してるっつーことは引継ぎの準備くらいやってんだろ? 来週からでも来れるか」
「え、えええ」
「あのな、井ノ中さん」
彼はずい、と顔を近づける。金の瞳孔が細くなる。
「さっきも言ったがあんたは今、素っ裸でその辺スキップしてるようなもんだ。とにかく、霊力を早くなんとかしたほうがいい」
「ええ、ええと……」
「俺も味見してやりたくて仕方ないのを、社会通念上我慢してやってんだぜ?」
べろり、と唇を舐めて笑う篠崎さん。
蛇に睨まれた蛙。まな板の上の鯉。猫に見つかった鼠。
――とにかく、そんな言葉が頭に飛来した。
「悪いようにはしねえ。俺んとこに来い」
「え、いや、あ、ああ、あの」
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