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――普通じゃない一日を迎えても、次の日は変わらぬ朝がやってくる。
翌朝私はいつものように地下鉄に乗って会社へと向かい、そして気が重いままタイムカードを打刻する。
時間は朝7時。
雑居ビル内の弊社の掃除に共有トイレ掃除、郵便の仕分けから今日の営業が使う資料のコピーと整頓まで、やっている間にあっという間に朝礼の時間になる。
9時から出社した社長は朝礼では相変わらず感情論を叫び、部長はそれにおもねって、営業の人々は自分に火の粉が掛からないように大人しくする。
「井ノ中!!体調を崩して休んだそうじゃないか!」
「申し訳ございません……」
「最近の女子は権利だの主張だのが強いばかりで、仕事も体調管理もできないまま意見を言おうなんていうやつが多いが……」
大抵私が悪者になって、それで終わり。
朝礼が終われば打ち合わせの準備をしていた私に、当然のように主任が近づいてくる。
「井ノ中さん、資料作っといた?」
「はい。そこにおいてます」
「ありがとー。あたしこういう生産的じゃない仕事、絶対したくないのよね」
主任はひらひらと手を振り、営業に向かう。彼女は社長の親戚の娘なのでいつもこんな感じだ。
そのとき。
ちょうど社長がデスクに座ってPCを閉じたので、私は意を決して近づいた。
「あの、社長……先日の辞表の件ですが……」
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