第1章/猫又男子のお仕事探し

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 今日は久しぶりに終電に間に合った。  よかった。とにかく疲れを取らないと……早く香椎に帰ろ……  思いながら無心で空いていた座席に滑り込み、トートバッグを抱えて目を閉じる。  ――その時、朗々とした車内アナウンスが響く。   『ご乗車ありがとうございます。次の停車駅は大濠公園、大濠公園です。ご乗車の際、駆け込み乗車は――』  無情な車内放送。はっと、まどろんでいた目が覚めた。  違う。これ、真逆。  私はドア付近にたむろする終電まで飲んでいた酔っぱらいの人の波をかきわけ、あわてて大濠公園駅で降りた。 「あぶなかった……唐津に連れていかれるところだった……」  どっと疲れを感じると同時に、何もかもどうでもよくなってくる。とりあえず突っ立っていてもしょうがないので、私は駅のホームから地上に出て大濠公園へと歩を進めた。  すでに時刻は0時を回っている。 「どうやって帰ろう。タクシー? 無理だよ…」  すっかり日が落ちた大濠公園には勿論、誰の姿もない。
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