第1章/猫又男子のお仕事探し

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 猫さんは私のトートバッグを凝視している。  そこにぶら下げていたICカードケースが淡く光っているので取り出してみると、はやかけんの例の犬の目が光っている。よくわからないけれど私を守る護符になってくれているらしい。 「はやかけんってこんな機能あるんだ……あ、目にシールが貼ってある」  そういえば昨日、川副さんの屋台に行く前、彼は私のトートバッグを勝手にかっぱらっていた。その隙に貼られたのだろう。 「篠崎さん……」  篠崎さんは私を心配して、こうしてお守りをつけてくれていたのに――私は彼の誘いを一方的に断った。あやかし関係の仕事なんて怪しい、普通じゃないから、と拒絶して。  あの時私を見送った篠崎さんは寂しそうな顔をしていたように見えた。  人間が、こうして怯えるから。普通じゃないって退けた世界の中に彼も、目の前の猫さんも生きている。  私は篠崎さんの事も、あやかしの事も何も知らない。  けれど彼は少なくとも、私に美味しいうどんをごちそうしてくれた。  しかも。普通の人間なら食べに行けないらしい、川副さんの美味しいうどんを。
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