67人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
かつて猫を使役する事が当たり前に行われた時代から、あやかしに頼らない時代になり、そして一族もいつしか猫があやかしであることを忘れてしまった。
けれど猫は主を忘れず、つかず離れずの距離で家を守り続けた。
飢饉にも明治維新にも幾度の世界大戦にも途絶えなかった家はついに、過疎化によって潰えてしまった。
消えた集落の消えた家。そこで、猫は最期の主を看取って霊力に飢え、福岡市という人里に降りてきた。
「生きていれば……この世界にいれば、あの人たちの家を見守り続けられる。家が朽ちても土地を、あの人たちが眠る山と一緒にいられる……俺は……」
黒猫はぽろぽろと涙をこぼす。
すっと体が軽くなってきたように感じる。私は声を張り上げた。
「猫さん! 猫さん! ……死なないで! 私の霊力?くらい、あげますから!」
「だめだ」
その時、ぞっとするほど冷たい声で篠崎さんが遮る。
「契約なしに霊力を与えるのはダメだ」
「どうして……!」
最初のコメントを投稿しよう!