67人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
「私、会社辞めさせていただけないんですか?」
「まだいうのか、君は」
社長は私に目すら向けないまま、はあ、とこれ見よがしに溜息をつく。
「まだ就職して一年目でそんなこと言ってどうするんだ。外じゃそんなんじゃやっていけないぞ。そんな甘ったれた若者が多いから、最近は少子化だのなんだの……」
「やっていけなかったらそれも自己責任なので、社長には関係ありませんよね」
ようやく社長の目が私へと向いた。猫だましをされたみたいな顔をしている。
というか猫だましという単語自体使うのがちょっと嫌だ。だって猫は可愛いもん。
「普通、そういうことは言わないものだぞ」
普通の言葉に一瞬胸がズキンとする。けれど私はにこりと笑顔を作る。
「普通の会社なら、営業事務しつつ営業成績も取れなんて言いませんよ。ましてや一年目の新人に」
「君。ちょっと思い違いをしていないか?」
立ち上がる社長。私はひるまず、まっすぐ立って頭を下げた。
「生意気を申し上げて、失礼いたしました。ですが私はこの通り社風に合わない社員です。弊社の為にも、私を辞めさせてください」
最初のコメントを投稿しよう!