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何が起きたんだろう。
呆けたまま会社を出てふらふら歩いていた私は、後ろから車が近づいてくるのに気づかない。
クラクションが鳴らされる。振り返ればそこには見覚えのある車があった。
「篠崎さん!」
「乗れ。駅まで送ってやるよ」
「ありがとうございます」
社用車の後ろには結構荷物が詰め込まれていて、私は自然と助手席へと座った。
車の中ではFMラジオが小さな音で流されている。
国道三号線を一直線に香椎方面へ多々良川を越えて向かう社用車は、迷いなく私の実家のほうへと走っていた。
車が流れに乗ったところで彼は話を切り出した。
「体調は? 夜に霊力ずいぶんと吸われただろ」
「ええと……全く大丈夫です」
「そうか」
一言だけだったが、此方を案じてくれていたのが伝わってくる声音だった。
私は篠崎さんを見やる。
窮屈そうに座席からはみ出したしっぽがラジオから流れる洋楽バラードに合わせて揺れている。無自覚なのだろうか。
もふ欲がむらりと湧き上がってきたところで、それに反応するようにしゅるりと腕に黒い尻尾が絡まってくる。
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