67人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
「最近の女性はツガイを見つけて繁殖も難しいという。そんな人生を、今なら腕輪で変えられる。お勧めする」
「あ、ああああの…」
ツガイって!? ツガイって何!?
というか、私全く結婚の話とかしてないんだけど。
結婚願望がないわけじゃない。お金だってそりゃああったら安心だ。
けれど私はただ、平凡に生きたいだけ。変わっているとか、目立つとかとかは嫌だ。
それなのに……それすら手に入らないから、悩んでいるだけなのに……
「え、ええと…私は本当に、お金が無くて……それに、ただ普通に、就職をして、親を安心させて、人生無難に過ごせたらそれでよくて…」
「『井の中の蛙大海を知らず』と古来言う。まずは挑戦だ」
「話聞いてください……」
占い師はずい、と腕輪を見せてくる。
その眼力に飲み込まれてしまいそうだ。
井ノ中楓、井の中の蛙どころか、まさに蛇に睨まれた蛙であります。
「うう……」
私は彼の眼力から逃れようと視線を逸らす。
その時。
旧天神コア前の横断歩道を渡り、大画面を通り抜け、背の高い男性が大股で歩いてきているのが見えた。
遠くからでもひと際目立つ明るい色のスーツに、サラサラのド金髪。
全身から明らかに『その筋の人』というのが伝わる男性だ。
最初のコメントを投稿しよう!