第1章/猫又男子のお仕事探し

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「……辞めさせてくれたのは、もしかして篠崎さんですか?」  言葉では返事をせず、ぺろりと舌を出す。成人男性がそれをやっても魅力的に見えるのだからずるい。 「辞めさせといて私の意向を聞くって、それはないですよ」 「や、一応聞いとかねえとな」 「さっき篠崎社長、弁護士に釘さされてた」 「えっ」  膝の上で猫の姿であくびしながら夜さんがいう。チッと、篠崎さんが舌打ちする。 「いうなバカ」 「にゃあ」  猫だからわからない、そう言いたげな白々しさで私の膝で丸くなる夜さん。毒づきながらも顔が笑っている篠崎さん。なんだかあまりにも和やかな光景で、私はつい笑ってしまった。  疲れていた肩が軽くなる。  こうして、仲良さそうにしている夜さんと篠崎さんの関係を見ていると、あやかし皆がこんな風に、素直に過ごせる世界を作りたいと思う。『此方』では普通として扱われない存在が、普通に過ごせるお手伝いをしたい。  私は自分の手のひらを見た。  会社では私なりに、たくさん資料を作って、たくさん仕事をして、たくさん貢献してきたつもりだ。  けれどこんなやりがいなんてちっともなかった。  でも、それが普通だと思っていたから。  普通だから、我慢しなきゃと思っていた。  けれど。
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