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それから。
私は篠崎さんの経営する『福岡あやかし転職サービス』のいち社員として働くことになった。
敏腕総務の羽犬塚さん。羽が生えた黒柴のお姉さん。
いつも気が付いたらそこにいる営業猫の夜さん。知っての通り、世間知らずな猫又のお兄さん。
そして一人だけ人間の私、井ノ中楓はキャリアカウンセラーとして働いている。
「井ノ中って呼びたくねえから、楓な」
という篠崎さんの命令により、皆さん私の事を楓さん、とか楓殿、とか呼んでくれている。
滅多にない名字だから、友達もだいたいそっちで呼んでくれてたので珍しい反応だと思う。ある日尋ねてみたら、篠崎さんは苦々しい顔をして一言、
「俺は井戸が嫌いなだけだ」
とだけ口にした。よくわからない顔をして首をひねる私に、羽犬塚さんは尻尾を振り振りしながらそっと教えてくれた。
「昔、井戸にまつわることで嫌なことがあったんですって」
柴犬の姿をしたままOLらしい制服を着てパソコンに向かいながら話してくれるので、ただただ可愛らしい。私は篠崎社長を想う。篠崎社長は狐だ。
「落ちて溺れたことでもあるんでしょうかね……」
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