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ある日、私は篠崎社長と一緒に、香椎花園駅そばに住む魔女の屋敷へと出向いていた。彼女は近くにある遊園地がいたく気に入っていて、夜な夜なそこで妖精の散歩をさせるために住まいをイギリスからこちらに移してきたのだとか。
帰り道。ホームで西鉄貝塚線の黄色い電車を待っている私の隣で、缶コーヒーを飲みながら篠崎さんは山をじっと眺めていた。
今日は晴天。
雲一つない空の下、立花山は青々とした美しい新緑に彩られ力強くそびえたっている。
子供の頃は、学校の遠足でよく登らされたっけ……
ふと、私は社長の事で気になっていたことがあるのを思い出した。
「社長って妖狐なんですよね」
「ん」
「篠崎社長も、昔、主さんがいたりしたんですか?」
「どうした、いきなり」
「いえ、なんとなく。……ただ、篠崎社長が一生懸命あやかしの『此方』の居場所を作ってあげてるのって、使命感に駆られているというか……誰か、主さんに命じられたりしたからなのかなって思って」
「カンがいいよな、お前」
「ようやく最近それ、誉め言葉に受け止められるようになりました」
「そりゃあよかった」
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