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篠崎社長は屈託なく笑うので、私はついどきりとしてしまう。見た目は柄が悪いのに、時々笑顔がとても屈託ないのがずるいと思う。
「自分亡きあともこの世界にいて欲しいと、かつての主人に請われた」
彼が仰ぎ見る先。綺麗な凹型になった立花山に、綺麗な雲がたなびいていた。
「彼女は恩人だった。そして父を陵ぐほどの霊力を持ち、狐を自在に操る天才だった。ただし時代と立場ゆえに、彼女は博多を離れそして失意のうちに命を落とした。……俺はその人の報いるために生きている」
篠崎社長は掌で缶を弄ぶ。風が、彼のふさふさの耳を撫ぜるように吹き抜けていく。その切なげな横顔に、私は思わずストレートに尋ねたくなった。
「好きな人なんですか?」
「ただの女上司だ!!!」
地雷らしい。ぶわわ、としっぽが大きくなる。
にこにこと笑う笑顔は吹き飛び、今までにない勢いで声を荒げる。
「いいか!? そこを色恋と勘違いしたら首だからな!?」
「は、はい……」
よほどの地雷らしい。私は頷いた。
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