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篠崎社長ははっとした顔をして、少し恥ずかしそうに耳をぺたりと下げる。私もさっき買ってもらった缶コーヒーをぷしゅっと開く。一口二口飲んだところで、篠崎社長が小さく付け加える。
「……当時もいろいろと、周りに色恋を詮索されて困ったんだよ。男(オス)の狐が俺だけだったおかげで良からぬことを言われる時代だったから」
「あー……なるほどですねえ」
そりゃあ地雷にもなる。
「だから、彼女が博多を離れる際に俺は一人ここに残った。……それから、ずっと彼女に頼まれた『此方』で居場所を失い始めたあやかしの為に働いている」
「その上司さん、きっと今喜んでますよ。篠崎さんがずっと自分の意思を引き継いでくれているのを」
「だといいけどな」
篠崎社長は笑う。
「なあ、楓は普通になりたいって言ってたよな」
「はい」
「無理だな」
「ええ」
いきなり唐突に尋ねられ、そしてばっさりと斬られて訳が分からない。
混乱する私に、篠崎社長は話を続ける。
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